ニュースの概要
ジールスとHISは2026年8月27日、旅行相談に対応する「HIS AIアバター」の提供を始めました。第1弾の対象は韓国旅行で、利用者は画面上のAIと会話しながら、行き先や過ごし方、現地での選択肢を探せます。単なる検索窓や質問集ではなく、旅行のプロが持つ経験や複数の社員が蓄積してきた知識を、相談しやすい形にまとめる点が特徴です。旅行会社にとっては、営業時間や担当者の人数に左右されていた提案業務を広げる取り組みであり、利用者にとっては、希望がまだ曖昧な段階から旅の形を具体化できる新しい入口になります。
引用元: HISが旅行相談用のAIアバターを提供開始、韓国旅行向けに第1弾(PR TIMES)
分析・見解
検索結果では拾えない希望を会話で具体化する
従来の旅行サイトは、出発地、日付、予算、目的地が決まっている人には便利です。一方で「家族が疲れにくい韓国旅行がしたい」「買い物もしたいが、混雑は避けたい」といった相談は、検索条件に置き換えにくいものでした。AIアバターの価値は、こうした曖昧な希望を会話で掘り下げ、候補を比較できる状態に変えることにあります。
これは、旅行会社の窓口を無人化するというより、相談の最初の段階を広げる仕組みです。人に聞くほどではないが、検索だけでは決められない層を取り込めれば、予約前の接点が増えます。特に韓国旅行は、都市観光、食、買い物、美容、音楽関連など関心が分かれやすく、同じ三日間でも提案内容が大きく変わります。個人の好みを聞きながら提案する方式と相性がよい市場です。
社員の経験知を再利用できることが最大の強み
旅行相談の品質は、担当者がどれだけ現地を知っているかに左右されがちです。混雑する時間帯、移動のしやすさ、子ども連れに向く店、予約が必要な施設など、公式情報だけでは判断しにくい知識があります。複数社員の経験をAIに組み込めれば、個人の記憶に埋もれていた知見を、営業時間外でも利用者へ届けられます。
ただし、知識を集めれば十分というわけではありません。情報の出典、更新日、対象となる旅行時期を管理しなければ、古い運行情報や閉店した店舗を案内する恐れがあります。生成AIがもっともらしい誤答を返す問題も残ります。回答の根拠を表示し、交通や営業状況のような変わりやすい情報は公式情報へ誘導する設計が必要です。AIが答えられない相談を人へ引き継ぐ道筋も、品質の一部になります。
会話の自然さより予約につながる設計が問われる
AIアバターでは、話し方や表情の自然さが目立ちます。しかし、旅行事業で成果を分けるのは、会話の演出よりも提案のつながりです。相談内容が、候補の旅程、概算費用、空席確認、担当者への引き継ぎまで連続していなければ、利用者は結局別のサイトを探すことになります。
技術面では、利用者の会話から条件を整理する機能と、HISが管理する商品や現地情報を照合する機能を分けることが重要です。AIが自由に文章を作るだけでなく、登録済みの情報から提案する仕組みを組み合わせる必要があります。さらに、希望条件を会話の途中で忘れない記録、予算超過を知らせる確認、個人情報を必要以上に保存しない仕組みも欠かせません。成功指標も、再生回数ではなく、相談完了率、提案から予約への移行率、有人窓口への適切な引き継ぎ率で測るべきです。
韓国での実証が他地域への展開条件を示す
第1弾を韓国旅行に絞ったことは、対象情報を整理しやすく、利用者の反応を検証しやすい点で合理的です。都市間移動や人気施設の混雑、季節ごとの需要など、相談が集中する論点を見つければ、次の地域に展開する際の型になります。ここで重要なのは、利用者が何を質問したかだけでなく、どの提案で迷いが解消したかを記録することです。
将来は、旅行前の相談に加えて、現地での予定変更、悪天候時の代替案、帰国後の次回提案にも広がる可能性があります。一方、AIが旅行会社の販売都合を優先すると、信頼は急速に失われます。おすすめの理由と制約を明示し、利用者が断った提案を何度も繰り返さないことが、長く使われる相談相手になる条件です。
ビジネスへの影響
相談件数を増やしながら人員を高付加価値業務へ回す
旅行会社が導入を検討する際は、単純な人件費削減だけで評価しないことが重要です。AIに任せやすいのは、希望条件の聞き取り、候補地の説明、よくある質問への回答です。人の担当者は、複数都市を組み合わせる旅程、予算調整、特別な配慮が必要な顧客への対応に集中できます。営業時間外の相談を受けられるため、比較検討中の顧客を競合へ流しにくくなる効果も見込めます。
導入前には、AI経由の相談数だけでなく、予約率、相談一件あたりの対応費、有人対応への移行率、回答の誤りが原因となった問い合わせ数を分けて測るべきです。短期的に会話数が増えても予約につながらなければ、画面の演出や質問の順番を見直す必要があります。
商品設計と社員教育をAI前提に組み替える
AIに学習させる情報は、販売資料をそのまま渡すだけでは不十分です。観光地、移動、食事、年齢層、季節、予算といった条件別に整理し、更新担当者と確認期限を決める必要があります。現地スタッフや添乗員の経験を定期的に収集すれば、提案の質を継続的に高められます。
また、社員にはAIを監視する役割だけでなく、AIでは扱いにくい相談を見極める力が求められます。利用者が不満を示した場合の引き継ぎ基準、返金や欠航など緊急時の案内、個人情報の取り扱いを事前に定めることが欠かせません。AIアバターは窓口の代替ではなく、販売、商品企画、顧客サポートをつなぐ業務基盤として設計すると、投資効果を判断しやすくなります。
成功の分かれ目は利用者の信頼を守る透明性
旅行の失敗は、日用品の買い間違いより損失が大きくなります。AIが提案した施設の営業状況、料金の変動、予約の確定条件を明確に表示し、最終確認が必要な場面では人や公式情報へ誘導する仕組みが必要です。AIの回答を無条件に信じさせるのではなく、どこまで確認済みかを伝えることが、企業の責任と利用者の安心につながります。