ニュースの概要
エミレーツ航空は10月14日、東京・大手町に「エミレーツ・トラベル・ストア東京」を正式にオープンした。店内には複数の言語に対応できるトラベルエキスパートが常駐し、航空券の予約に加え、旅行先の情報提供や、客の希望に合わせた旅程の提案を行う。対象は日本に住む人だけではなく、海外から日本を訪れる旅行者も含まれる。ネット予約が主流の今、あえて対面の窓口を構える点が特徴である。開設のねらいは、オンラインだけでは伝えにくい不安や相談に、人の手で応えることにある。同社が航空券の販売にとどまらず、旅行全体の設計を手伝う立場へ踏み出したことを示す動きといえる。
引用元: エミレーツ航空、東京にトラベルストアを開設し個別旅程提案を強化(Emirates)
分析・見解
航空券の販売窓口から、旅の設計の相談所へ変わる意味
エミレーツ航空が大手町に開いた店舗は、単なる発券カウンターではない。多言語に対応した専門スタッフが、航空券の予約だけでなく旅行情報の提供や旅程の提案まで担う。つまり、売る商品が「座席」から「旅全体の段取り」へ広がっている。
航空会社にとって座席は在庫であり、空席は出発の瞬間に価値がゼロになる。そのため従来は、価格と販売経路の最適化が競争の中心だった。だが運賃比較サイトが普及した今、価格だけで差をつけるのは難しい。そこで、価格以外の理由で選ばれる仕組みとして、相談という体験を自社で持つ動きが出てくる。
オンライン予約が苦手とする高額旅行の不安解消
オンライン予約は、行き先も日程も決まった人には非常に便利である。一方、複数都市を回る旅、家族連れの長距離移動、乗り継ぎを含む周遊などは、判断すべき項目が一気に増える。ストップオーバー(=途中で降りて滞在すること)を入れるか、荷物の規定はどうか、現地の入国手続きは何が必要か。画面上の選択肢が多いほど、人は決められずに離脱する。
画面からの離脱は、航空会社から見えにくい損失である。対面の相談は、この迷いを人の言葉で解消できる。高額な座席ほど、購入前に確かめたい人は多い。上位クラスの販売と相性が良い取り組みといえる。
日本発と日本着、両方向の旅行者を一か所で受け止める
今回の店舗は日本在住者に加え、海外から日本を訪れる旅行者も対象にしている。ここに独自性がある。訪日客は、到着後の国内移動や宿泊の相談先を探している。日本在住者は、出発と同時に乗り継ぎ先の情報を求める。流れが逆の二つの需要を、同じ多言語スタッフが受け止められる。
エミレーツは中東の拠点空港を経由して世界各地を結ぶ運航網を持つ。そのため、日本から欧州やアフリカへ向かう旅と、世界各地から日本へ来る旅の双方に関われる。拠点の位置を活かした相談は、国内線中心の旅行会社には作りにくい。
店舗の成否を分ける、相談から予約までの設計力
ただし、店舗は置くだけでは成果が出ない。家賃の高い都心の一等地では、1件あたりの相談時間が長いほど採算は厳しくなる。相談の入口をオンラインの予約制にする、相談内容を事前に聞いておく、相談後のフォローをメッセージで続ける、といった設計が欠かせない。店舗の価値は来店数ではなく、相談後にどれだけ予約へ結び付いたかで測るべきである。
ビジネスへの影響
旅行会社や宿泊施設は、提携先として動くか競うかを決める
航空会社が旅程づくりに踏み込むと、旅行会社とは競合し、同時に連携の余地も生まれる。たとえば、法人の出張手配や周遊旅行の企画を持つ旅行会社は、航空会社の専門スタッフと組むことで、運賃や座席の情報を早く得られる。宿泊施設や観光事業者にとっては、航空会社の相談窓口が新しい紹介元になる。自社の魅力を、旅程に組み込みやすい形で整理して渡せるかが分かれ目になる。所要時間、受け入れ人数、多言語対応の有無を一枚にまとめておくだけでも、提案の候補に入りやすくなる。
自社の相談窓口を持つ前に確かめたい三つの数字
自社で相談窓口を検討する企業は、始める前に三つの数字を確かめたい。一つ目は、相談の成約率。二つ目は、1件あたりの対応時間。三つ目は、相談客の再訪率である。この三つが見えれば、人員の配置と営業時間を無理なく決められる。いきなり常設店を作る必要はない。まず期間限定の相談会や、予約制のビデオ相談から始め、手応えを数字で確かめるのが現実的である。
あわせて、多言語で対応できる人材の確保には時間がかかる。採用だけに頼らず、翻訳ツールと担当者の組み合わせで対応範囲を広げる工夫も有効である。最終的に問われるのは、画面では伝わらない安心感を、どれだけ再現できるかである。