ニュースの概要
Magnifica Airが、空港での手続きから機内、到着後までを一体で手がける新しい高級旅行商品を発表した。担当のコンシェルジュが手荷物を引き受け、米国の保安検査では優先レーンを使える。自宅や宿泊先からの送迎車、プレミアムラウンジ、乗客ごとに合わせた機内食も含まれる。機内はリクライニングシートと個室型スイートを組み合わせ、一部の機材には乗客同士が交流できるラウンジも置くという。座席のグレードを上げるだけでなく、旅の最初から最後までを一つの商品として売る点が特徴だ。
引用元: Magnifica Air、コンシェルジュ型の新ラグジュアリー旅行商品を発表(World Airline News)
分析・見解
座席の競争から旅全体の設計へ移る高級路線
高級航空商品の競争は、長いあいだ座席そのものが中心だった。フルフラットになるか、扉付きの個室か、座席幅は何センチか。こうした数字で差をつけてきた。
Magnifica Airの発表は、この前提を一段ずらしている。手荷物の引き受け、保安検査、送迎、ラウンジ、機内食を一つにまとめて売るからだ。富裕層が不満を感じる時間は、実は空を飛んでいる間より、地上での待ち時間や手続きに多い。そこを消すほうが、座席を少し広げるより満足度に響く。
空港の手続きが最大の差別化になる理由
長距離のファーストクラスでも、空港では普通に並ぶ場面がある。チェックインの列、荷物の受け渡し、保安検査の混雑などだ。Magnifica Airはここをコンシェルジュが肩代わりする形にした。
たとえば日本の大手航空会社の上級会員向けサービスにも、専用カウンターや優先レーンはある。ただしそれぞれ別々の特典で、案内役が一人つくわけではない。窓口が一人に集約されると、乗客は「次に何をすべきか」を考えなくて済む。この負担の軽さこそ、価格の根拠になる。
なお、米国のTSAの優先審査は航空会社が単独で決められる仕組みではない。会員制度や政府の枠組みとの連携が必要になるため、実際にどこまで提供できるかは運用の細部で差が出るだろう。
個室スイートと交流ラウンジという相反する価値
興味深いのは、個室型スイートと乗客同士のラウンジを同時に用意している点だ。一人で静かに過ごしたい人と、人脈づくりをしたい人。目的の違う二つの客層を同じ機体で受け止める作りになっている。
同じ発想は高級ホテルにも見られる。客室は完全な私的空間にして、ロビーやバーを社交の場として磨く方式だ。機内でも、眠る場所と話す場所を分けることで、長い飛行時間の使い方を乗客が選べるようになる。ただし、ラウンジに席を割くと販売できる座席数が減る。そのぶん一席あたりの単価を上げられるかが、採算の分かれ目になる。
個別化された食事が示すデータ活用の方向
個別化された機内食も見逃せない。好み、アレルギー、過去の搭乗履歴をあらかじめ把握していなければ実現しない。つまりこの商品は、予約時点から乗客の情報を集め、現場に引き継ぐ運用を前提にしている。
高級路線ほど、サービスの質は人の気配りに頼ると思われがちだ。しかし実際には、気配りを再現可能にする情報の仕組みが土台になる。今後は、この仕組みを持つ会社と持たない会社の差が、価格にそのまま表れてくるだろう。
ビジネスへの影響
出張規定と接待旅行の見直しが迫られる
企業にとっての影響は、役員や重要顧客の移動に表れる。これまで出張規定は「ビジネスクラスまで」「ファーストは役員のみ」のように、座席の等級で線を引くのが普通だった。
しかし旅全体を一括で売る商品が増えると、等級だけでは判断できない。たとえば乗り継ぎで失う時間や、到着直後に会議が入るかどうかで、実質的な価値が変わるからだ。規定を見直すなら、等級に加えて、到着後の予定や移動の総所要時間を判断材料に入れるのが現実的である。
旅行会社と観光事業者が取るべき動き
旅行会社にとっては、脅威であり好機でもある。航空会社が地上サービスまで自社で抱えると、手配を仲介する余地は狭まる。一方で、現地の宿泊、食事、体験の組み立ては、航空会社が苦手とする領域だ。
狙いは、空港到着後の行程を高級路線の続きとして設計し、航空会社の商品と組み合わせて提案することである。送迎から客室、現地の案内まで同じ水準でつなげられる事業者ほど、顧客に選ばれやすい。
小さな事業者でも真似できる体験設計の考え方
この発表は、大企業だけの話ではない。中小の宿泊施設や観光業者でも、顧客が不便を感じる場面を洗い出し、そこを先回りして消す発想は使える。
具体的には、予約時に好みや同行者の情報を聞き、当日の案内役を一人に決めるだけでも体験は変わる。設備への投資より、情報の引き継ぎと担当者の決め方で差がつく。高価格帯を狙うなら、まず自社の客が最も待たされている場面を一つ見つけることから始めるとよい。